「AIがあれば、もう社労士は要らないのでは」
最近、そう感じている経営者の方や、同業者、そしてこれから社労士を目指す受験生の方もいらっしゃるかもしれません。
結論から言うと、個人的な見解ですが、社労士の仕事がAIによって完全になくなることはありません。ただし、仕事の「中身」は、確実に変わっていくと思います。
AIが得意なこと、苦手なこと
給与計算、書類の電子申請、法改正情報の検索、就業規則のひな形の作成など、こうした「手順が決まっている仕事」は、AIが最も得意とする領域です。
今後、価格・スピードともに、AIが人を上回っていくのは間違いありません。
一方で、AIが苦手なことがあります。
@ 上司と部下の間のハラスメントなどでこじれた関係を、時間をかけて調整すること
A その会社の歴史や社風に合わせて、人事制度を「翻訳」して設計すること
B 経営者本人もまだ言葉にできていない「本当はこうしたい」という想いを引き出すこと
C 人事労務管理における決断の場面で、相手の覚悟を見極めながら伴走すること
D 法改正の情報を、各社の状況に照らして、「結局うちは何をすべきか」に翻訳すること
特に小さな会社では配置転換の選択肢が限られるため、@のような関係の調整には、より丁寧な時間と対話が必要になります。
この違いを一言で言うと、「答えが一つに決まる問題」と、「答えが一つに決まらない問題」の違いです。
前者はAIが速く、安く解決します。後者は、その会社の風土や人間関係、経営者の器によって、最適解が毎回変わるため、AIにすべてを任せることができません。
「制度を作る」ことと「制度が機能する」ことは別
人事評価制度や理念策定も、AIで一瞬で作れる時代になりました。
しかし、言葉として完成させることと、その言葉が、現場で実際に機能し、社員の行動が変わることは、まったく別の話です。 きれいなポエムのような理念を掲げても、評価や採用の仕組み、日常の意思決定に落とし込まれていなければ、多くの場合は元に戻ります。
そして、その落とし込みには、経営者の本気度と、現場との丁寧なすり合わせが欠かせません。ここは今も昔も、" 時間と対話 " でしか解決できない領域です。
これから社労士を目指す方へ
この8月に、試験を控えている受験生の方に伝えたいのは、AIの登場は、「社労士という仕事の縮小」ではなく、「仕事の中身の入れ替え」だということです。
手続きや規程などの正確さだけでなく、経営者や社員の声に耳を傾け、複雑な状況を整理する力が、これまで以上に価値を持つ時代になります。
知識の土台を作りながら、人と向き合う力を磨いていってください。