遠くの知に触れるとき、人は動き出す
経営学者の入山章栄先生の「両利きの経営」にこんな言葉がある。
イノベーションの第一歩とは、今ある既存知と別の今ある既存知の新しい組み合わせであり、その距離が離れているほどインパクトがある!
つまり、遠くの知に触れることが「変化の起点」になる。
では、なぜ日本の企業は変われないのか。入山先生は「経路依存性」という言葉で説明する。かつて合理的だった仕組みが噛み合ったまま
固まり、時代に合わないとわかっていても動けない。これを聞いて、ひとつの問いが浮かんだ。
経営者は、現場から近いのか、遠いのか
現場に近い経営者は、経路依存性をリアルに実感できる。肌で感じている分、課題の輪郭は見えている。ただ、実感できることと、
変えられることは別の話だ。現場に近いということは、その経路依存性の中に自分も埋まっているということでもある。
変化の鍵は、距離ではなく“風通し”(=心理的安全性)にある。
現場からの本音や意見が、上に届くかどうか。社長が耳を貸せるかどうか。たとえ現場に近くても、社員の声が届かなければ、
それは遠くから眺めているのと変わらない。
ただし、腹落ちだけで組織は変わるだろうか。
パーパスやビジョンへの共感が生まれても、それが日々の仕事や評価とつながっていなければ、やがて言葉だけが宙に浮く。
「理屈ではなく仕組みを変える」。変革が定着している組織は、腹落ちの先に必ず構造がある。
今の時代、社長一人が会社のすべてを把握して舵を切ろうというのは、かなり厳しい話だ。
情報の複雑さも、現場の多様性も、かつてとは次元が異なる。「自分が全部わかっている」という幻想を手放せるかどうか。
私が支援先を選ぶとき、その一点を自然と見ている気がする。
制度はその後の話だ。MVVを言語化し、バリュー評価に落とし込み、組織の風通しを構造化する。
それが私の仕事のセンターピンだが、その前提として、経営者自身の認識がどこにあるかを問う。
そして、認識は対話の中で動く
「MVVを言語化することに、何の意味があるのか」。最初はそう思っていた経営者が、話し合う中でふと気づく時がある。
押しつけたわけでも、説得したわけでもない。対話そのものが、遠くの知に触れる体験になっていたのだと思う。
入山先生の理論と、私の現場での実践。この二つが一つの「遠くの知」として、経営者の認識を揺さぶるきっかけになれたら、
それが、経路依存性の枠から組織改革への第一歩につながると感じています。