なぜ日本の生産性は上がらないのか?「分かっているけど変われない」の正体
「AI を活用しよう」「無駄な会議を減らそう」「デジタル化を進めよう」
働き方改革や生産性向上について語られる場面で、こうした解決策を聞いたことがない人はいないでしょう。書店にはハウツー本が並び、セミナーでは成功事例が紹介され、誰もがその重要性を理解しています。それなのに、なぜ日本の労働生産性は改善されないのでしょうか?
問題は「何をするか」ではなく「なぜ、できないか」
答えは意外にシンプルです。私たちは既に「何をすべきか」を十分に知っているのです。       
問題は、それが実行できない理由にあります。
その1「組織文化の重力」
「AI を導入したいけれど、初期費用が心配」「今のシステムとうまく連携できるか分からない」「年配の社員が使いこなせるだろうか」
こうした懸念は決して無理もありませんが、その背景には「変化への漠然とした不安」があります。
会議についても同様です。「みんなで決めた」という安心感、責任の分散、何かあった時の「ちゃんと議論した」という免罪符。これらは日本的な組織運営の根幹に関わる部分で、そう簡単には変えられません。
その2「個人の心理的ブレーキ」
管理職の立場になって考えてみてください。部下に権限を委譲するということは、場合によっては「自分の存在価値とは何か」を問われることになります。
また、効率化によってミスが起きたとき、「従来通りにやっていれば起きなかった」と責任を追及されるリスクを考えると、これまでのやり方を踏襲してしまう気持ちも理解できます。
その3「既存システムとの摩擦」
年功序列、縦割り組織、従来の評価制度等々、これらは長年かけて構築されたシステムです。たとえば、「ダイバーシティが大事だ」と以前から言われているのに、日本の企業で進んでないのはなぜでしょう?それは、ほかの要素がダイバーシティではない状態でかみ合っているからなのです。それが良くも悪くも合理的にかみ合っているからこそ組織が回っている。そのどこか一つだけを「時代に合わないから変えよう」としても、他がかみ合わなくなるので、結局は変えられない。これが「経路依存性」です。ゆえに(歴史がある組織ほど)、急激な変化は必ずしも歓迎されるべきものではありません。
技術の問題ではなく、人間の問題
つまり、生産性向上を阻んでいるのは技術的な課題ではなく、極めて人間的で組織的な課題なのです。
最終的には「人の問題」に行き着くのかもしれません。
日本の縦社会や調和重視の文化は、決して悪いものではありません。
 高度経済成長期には、この「みんなで足並みを揃える」文化が大きな力を発揮しました。しかし時代が変わり、スピードと創意工夫(イノベーション)がより重要になった現在では、同じ文化的特徴がもはや制約になってしまうことも多々あります。
 「和を乱してはいけない」という意識が必要な変化への発言を躊躇させたり、「経営者(上司)の顔を立てる」ことが効率性より優先されたり、これらは日本人の美徳でもある一方で、現代のビジネス環境では足かせにもなり得るのです。「業務フローの見直し」や「最新ツールの導入」も大切ですが、それ以前にこうした組織内の文化的背景を理解し、「なぜ、今のやり方を変えたくないのか、変えられないのか」に向き合うことの方が重要なのかもしれません。











