人的資本と賃金の関係は、個人の能力、知識、技能への投資を通じて生産性を向上させ、結果として賃金を上昇させるメカニズムです。
ミンサー型賃金関数※ による分析では、賃金の約半分が人的資本によって決定され、企業属性を大きく上回ることが明らかになっています。
賃金を決定する最大の要因は人的資本であり、継続的な投資が不可欠です。スキルアップによって人的資本のストックを増やすことで個人は成長しますが、投資を怠れば技能は陳腐化し、市場価値は低下します。
重要なのは、賃上げは結果であり、手段ではないということです。単に賃金を上げても、生産性や付加価値の向上がなければ、それは一時的な対症療法に過ぎず、中堅、中小企業を中心に根強い年功賃金とも相まって長期的な財務負担になるリスクがあります。
従来の昭和型ステークホルダー主義は、雇用の維持と忠誠心の確保に重点を置いていましたが、現代では世代に関わらず、人への投資と育成へのマインドセットの転換が求められています。
人的資本投資の目的は、個人の市場価値を高め、生産性を向上させ、技能の陳腐化を防ぐことにあります。個人の成長は自立性を促進し、労働市場の流動性を高め、最終的には持続可能な経済成長につながります。
デジタル化の進展によって、私ら社労士業界もそうですが、あらゆるビジネスの在り方や前提が崩れ始めています。市場や顧客ニーズが劇的に変化する中で、企業も能動的に変化し、革新的なアプローチからイノベーションを創造しなければ生き残ることはできません。人材への過小投資から「適切な人的投資へのシフトチェンジ」が今後の重要課題となると言えます。
※ミンサー型賃金関数とは、職業訓練を含めた教育の投資効果や勤続経験が人的資本の蓄積をとおして賃金を向上させるとする人的資本理論に基づき導出された賃金関数のこと。